バリアとは単に物理的な段差といったことではなく、加齢や障害によって生じる生活スタイルの急激な変化=段差ととらえることができます。その意味で、S様邸は徹底したバリアフリー対策が取られた一棟と言えるでしょう。
たとえば玄関やホール、廊下など通路となる部分は車椅子での生活をも視野に入れ、段差を廃したゆとりの空間設計としています。またご夫妻の生活空間は基本的に1階部分に集中させ、階段の昇り降りを極力回避するよう配慮されています。2階部分に相当するロフトはあくまでも来客用で主にご親戚や娘さん家族が宿泊される場合にのみ活用するといった割り切りがなされています。
やわらかな光が差し込む玄関ホールは、刷引き模様のモルタルをあしらい、風情のある空間に仕上がっています。お料理が趣味という施主様のご要望で導入されたアイランド型キッチン。リビングに置かれたテレビを観ながら家事ができると奥様からも好評です。リビングの開放的な掃き出し窓には、開け閉めできる小障子を取り付けた猫間障子が。採光とプライバシーを両立する粋な知恵です。
さらに注目したいのは、邸内からドアをほぼ全面的に排除し、すべて引き戸としたこと。最大のメリットは開閉時に体を移動させる必要がなく、車椅子でもラクに生活できる点ですが、もちろんよく行き来する場所であれば、簡単に開け放しておくことも可能です。さらに同じ条件であれば、ドアよりも開口部を広く取ることができるのも引き戸ならでは。このほか、トイレには最小のアクションで開閉できるスライディングドアを設置。最大に開放した状態でドアの半分がトイレ側に引き込まれるため、出入りの障害になりません。
ギャラリー
建築地: 千葉県 大多喜町
テーマ:
完工日: 2008年11月